コラムコラム

第9回 ヨコハマ・ベイの天の川

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子どもの頃から天体望遠鏡で星や月を観察するのが好きだった。

夏休みに田舎に行ったときは、何度も天の川を見たものだけれど、大人になって‘天の川を見た’ことなどすっかり忘れていた。

それが思いがけなく、僕の頭上に白い雲の川のように天の川が現れたのだ。

場所はオアフ島西海岸のヨコハマ・ベイ。僕はフラの映像を撮るため、スタッフの一人として、ここオアフ島に来ていた。 その日は朝からあわただしくスケジュールをこなさなくてはならなかった。晴天から突然、雨嵐に見舞われ、激しく移り変わる天候に悩まされたが、運良くサンセットタイムには雲も切れて、美しい夕日をバックに撮影ができた。

ラストカットは、古典フラのカヒコ。薄暗くなると同時にトーチ(松明)をビーチに何十本も立て、幻想的な雰囲気を作り出した。たまに吹く突風に悩まされながらも、無事終わった時には、既にあたりは真っ暗で、トーチの火を落とすと同時にヨコハマ・ベイは漆黒の闇に包まれた。

都会生活の中では、夜になっても、何も見えない闇を体験することがないので、一瞬恐ろしささえ感じた。この場所は古代ハワイアンの魂が集まり、海に旅立つ場所と言われているカエナ・ポイントの麓でもあるので、闇と古代ハワイアンの言い伝えがいっそう重く感じられたのだ。

懐中電灯を頼りに撮影機材を車に積み終わり、一息ついてふと、夜空を見上げた瞬間、思わず声が出た。藍色の空一面に白、黄、水色、オレンジ、ピンクとさまざまな色で輝いている星が見えた。

マウナケアやハレアカラの山頂ならまだしも、海抜0メートル地点のビーチで、これだけの星を見たのは初めてだった。そして天空を左右に分けるように白い雲のような天の川がはっきりと見えた。

星の輝きでうっすらと見えるカエナ・ポイントのシルエットが、神秘的に思えた。僕はこの素晴らしい天体ショーを時間を忘れ見ていたかったのだが、他のスタッフと一緒にホテルに戻らなくてはならなかったので、感動した気持ちを抱きながら真っ暗なヨコハマ・ベイを後にすることにした。

ハワイでも人口の明かりがまったく無い場所はめったに無く、ヨコハマ・ベイにこの時間までいるのは治安上問題がある。この日の撮影も、一日中ポリスをガードマンとして雇っていたほどだ。

ここから10分程かかる宿泊先のマカハ・リゾートについたときには、もう天の川は消えてしまっていた。

爽やかな貿易風を受け、打ち寄せる波の音を聴きながら見る壮大な天体ショー。 それは、古代ハワイアンの時間、闇というものを確かに感じた瞬間だった。僕は貴重な体験をしたと思っている。

今も観光客で賑わうサンセット・ビーチから遥か先に望むカエナ・ポイントを見ると、あの時の特別な体験を思い出す。