片岡義男氏の短編小説集「波乗りの島」に‘アイランドスタイル’という物語がある。
フィクションだが火山の噴火、黒砂海岸での波乗り、オールドタウンの光景が細かく描写されている。またリゾート開発問題など様々な近代ハワイが直面している問題が散りばめられている。読むと舞台はビックアイランドなんだとすぐにわかる。
登場人物も先祖代々この島に住んでいるハワイアンのファミリーで、ハワイアン・ソングをファミリーや友人と演奏するシーンは、まるでギャビーパヒヌイ・バンドを彷彿させる描写だ。そこにメインランドからアルバム録音のためにやって来たミュージシャンの登場はまるでライ・クーダーを思わせる。
そのアルバムは実際にギャビーパヒヌイ・バンドVol.1、Vol.2としてリリースされていて、70年代ハワイ音楽のバックグラウンドを知っている人にとってはたまらない話だ。月明かりに照らされて、このファミリーが広いラナイ(テラス)で山から吹き下ろす心地良い花の香りを含んだ風のなかでハワイアン・ソングを演奏する場面が描かれている。読んでいるとまるで自分もそこにいるかのような感覚を覚え、頭のなかをギャビーバンドの歌声が駆け巡る。この感覚を味わいたくて、僕はプリモビールを飲みながら、この物語を幾度となく読んだ。
‘Island Style’と題したイラストは山内雄喜氏のアルバム‘Na Mele O Hawaii E Alani’Vol.6のジャケットのため描いたものだ。
Island Style
アルバムのコンセプトは1970年代に起こったハワイ文化の復興(ハワイアン・ルネッサンス)の中でギャビー・パヒヌイが注目されスラック・キー・ギターが主流になっていった時代の音楽で、片岡氏の‘アイランドスタイル’の内容に近いものだった。そして1972年リリースされたギャビー・パヒヌイのアルバム‘Gabby’の中のブックレットに、ギャビー・ファミリーが自宅の庭で楽しそうに演奏している有名な写真が掲載されているのを思い出し、その写真を元に‘アイランドスタイル’の一場面である月夜のカニカピラ(セッション)を思い浮かべながら描いてみた。
アラニ山内氏自身も、カニカピラに参加してもらった。もちろんバンドリーダーはアラニ山内氏だ。このスラック・キー・ギター アルバムもとても心地良くアイランドスタイルの中で吹いている風を想像させるアルバムになっている。
僕は絵を描き始めた時から‘心地よいハワイアン・ソングが聞こえてきそうな絵’を描き続けたいと思っていて、今でもそれは常に頭の中にあり続けている。