一般的に「ハワイ」はニイハウ島以東の八島を指す。このうちカオホオラヴェ島をのぞく七島に人が住んでいる。観光客が訪れることのできるのは、カホオラヴェ島とニイハウ島以外の六島である。
しかし実は「ハワイ」にはこれ以外にもたくさんの島がある。ニイハウ島の北西に連なる「北西ハワイ諸島」と呼ばれる一連の島々は実に東西1800キロにもわたって続いているのである。
2006年6月、これら島々とその周囲の海約36万平方キロメートルを、アメリカのジョージ・ブッシュ大統領は「海洋国立モニュメント」と指定した。京都議定書に反対するなど、環境保護には決して熱心とはいえないブッシュ大統領が、ハワイの海の保護には強い関心と指導力を発揮したのだった。この結果、なんとほぼ日本の国土に匹敵するほどの広大な地域が、アメリカ合衆国政府の管理下で今後保護されることになった。
今日、北西ハワイ諸島には政府から派遣されている関係者以外に住人はいない。特別な許可がなければ、島に近付くことすら許されていない。「海洋国立モニュメント」の指定を受けることで、基本的には人間がまったく立ち入れない空間が設けられたのだ。その代わり、これらの島々とその周囲の海には何百万羽にものぼるアホウドリなどの海鳥、ウミガメやハワイアン・モンクアザラシといった希少動物など、あらゆる生物が集まってきている。ハワイの自然がここでは大切に守られているのだ。
実はこれらの島のなかには、その昔、ネイティヴ・ハワイアンが住んでいたり、訪れたりしたところもあった。とくにニイハウ島の北西にあるニホア島にはネイティヴ・ハワイアンの居住跡が残っている。さらに西に浮かぶモクマナマナという小さな島には、住居跡はないけれども、さまざまな信仰の儀式を司ったと思われる場所が残されている。ここは北回帰線上にあり、夏至の日には太陽が垂直に昇る。ハワイアンはこの特別な位置にある島を神聖な土地と捉え、ニホア島やさらに遠方からやってきて、神に祈りを捧げたのだった。
このような伝統をふまえて、北西ハワイ諸島は「パパハナウモクアケア海洋国立モニュメント」と命名された。これは大地に象徴される母なる神(パパハナウモク)と、空に象徴される父なる神(ワケア)を組み合わせたハワイ語の造語である。
北西ハワイ諸島はハワイアンには特別な場所だから、普段は立ち入りの禁止の区域でも、特別に許可を得たハワイ先住民の団体には上陸が許されることがある。実際、先祖に敬意を示すために、島を訪れている組織もいくつかあるようだ。しかし私たち日本に住む者が北西ハワイ諸島を訪れる機会はほとんどないだろう。なんだか残念な気もするのだが、観光客を締め出すことで守られる自然もある。そのことを自覚して、喜んで我慢するのも大切だろう。
北西諸島については、http://hawaiireef.noaa.gov/ などのサイトもあるから(残念ながら英語です)、写真を眺めながらこれら「手つかずの島」をヴァーチャルに満喫することをお勧めしたい。