かつてビッグアイランド(ハワイ島)の南東、プナ・コーストのカイムからカラパナにかけて美しい黒砂海岸(ブラックサンド・ビーチ)が存在していた。
真っ青な空、海岸沿いにびっしりと群生しているココパーム、サラサラとした黒砂に打ち寄せる白い波。このコントラストが映えたのがカラパナの黒砂海岸だと僕は思う。残念なことに1992年のキラウエア火山の噴火により溶岩が流れ込み、この美しい黒砂海岸は消滅してしまった。
僕がカラパナの黒砂海岸を知ったのはハワイの人気バンド「カラパナ」の曲がきっかけだった。1976年リリースのカラパナのセカンド・アルバム’Kalapana Ⅱ’に‘Black Sand’というインストメンタルの曲が収められていて、彼らのコンサートではオープニング・ナンバーに使われているカラパナのファンにとって印象的な曲だ。
僕は今でも時々、溶岩で埋まってしまったカラパナの地を訪れてみる。溶岩流で道路もビーチも埋め尽くされ、民家もほとんど無くなってしまった場所にぽつんと1軒だけカラパナ・ストアーが営業している。当時も今もプレート・ランチとお土産を売っている様子は変わっていない。溶岩が流れて来た時、この店の手前で奇跡的に溶岩の流れが止まったという話だ。
まだカラパナ黒砂海岸が健在の頃、僕はカラパナ・ストアーを訪れている。ココナッツ・グローブの中にあった店の前は黒砂の海岸だったのに、今では海岸線ははるか先の方にあり、ここからまったく海は見えない。92年の大噴火以来、久しぶりにカラパナ・ストアーを訪れた時はストアーが内陸の方に移転をしたと勘違いしてしまったくらいだ。
溶岩で道路が寸断されたデッド・エンドに1軒の民家がある。その家は家族でハワイアン・ミュージックを楽しんでいると聞く。典型的なオールド・スタイルのファミリー・バンドだ。以前、日本のテレビでも紹介されたことのあるこの家族は、‘G – Girl Keli’iho’omalu’という名前で‘Aloha Kaimu’と‘Kalapana I Ka Wa Kahiko ? Imua Kakou’の2枚のCDアルバムをリリースしていて、彼らのゆったりとした演奏を聴いているとなぜか優しい気持ちになれるのだ。
ビッグアイランドのお土産屋ではカラパナ黒砂海岸のポストカードを何種類も見つけることが出来る。どれをとっても写真がとても美しく僕は全種類購入してしまった。あの美しい黒砂の海岸はこのポストカードでしか見ることが出来なくなってしまったのはとても残念だ。まさか、このカラパナの黒砂海岸が消滅してしまうなどとは僕は夢にも思っていなかった。
92年の大噴火から十数年後、美しい黒砂海岸を消滅させてしまった不毛の溶岩台地に立つと、既に溶岩の割れ目にはシダやオヒアが小さな芽を出していた。生命力の強さを見た瞬間だった。大自然の中にいる自分の小さな存在を実感できる島。それがビッグアイランドだ。