コラムコラム

第10回 古き良き時代のメニュー

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ハワイのアンティーク・ショップに並べられているレストランや豪華客船で使われていた古いメニューの数々を見ていると、優雅な時代のハワイが見えてくる。 楽園をイメージさせるメニュー・カバーのイラストは、僕を古き良きハワイへと導いてくれる。

当時のディナー・メニューには一夜限り(日付入り)のメニューというものが数多く存在していた。1930年代から60年代に、メインランドからハワイ、太平洋の島々へ運行していた豪華客船マトソンラインで使われていたディナー・メニューはその代表だ。アメリカ西海岸からホノルルまでの船旅は、6日間要したので6日分6種類のイラストが描かれたものがあった。

このメニュー・カバーの絵を描いたアーティストも、年代により異なるが、中でも有名なのが40年代の‘フランク・マッキントッシュ’と50年代の‘ユージン・サベージ’だ。鮮やかな色使いの2つの作品は、楽園ハワイというイメージ作りに大いに貢献していると思う。このメニュー・カバーを見て、これから楽園ハワイに訪れようとしている人の憧れと期待感を高めるアイテムになっていたことは確かだ。

マトソンラインのメニューと並んでコレクターにも人気なのが‘ジョン・ケリー’のイラストが表紙になった、ロイヤル・ハワイアン・ホテルのディナー・メニューだ。落ち着いた色調で島の人達の生活風景を描いている。こちらも日付入りで6日間分あった。これらをコアやバンブーのフレームに入れて部屋に飾れば、古き良き時代のハワイの雰囲気を出すことができる。

最近密かに人気の出てきたティキ・カルチャーのレストラン(ティキ・バー)メニューは、どれも皆、ハワイやポリネシアのイメージをうまくとらえている。僕は以前から、それらのメニュー・カバーのイラストやデザインにとても興味をもっていた。 ハワイだけに留まらずメインランドでも50年代から60年代にかけてティキ・バーが次々に開業し、一世を風靡した。

中でも代表的なのが‘ドン・ザ・ビーチコマー’、‘トレーダー・ビックス’、‘コンティキ’など、どれもティキをキャラクターしたエキゾティックなポリネシアン・レストランだ。昔のメニュー内容を見てみると、カクテル$1.50、ロブスター$3.00、ニューヨーク・ステーキ$5.00、ココナッツ・アイスクリーム$0.60と価格の安さに驚かされる。ちなみにこの価格は、50年代にロスアンジェルスのビバリーヒルズにあったレストラン‘ルアウ’(The Luau)のもの。さまざまな時代のメニュー・カバーのイラストと内容を見ていると、時代を超えたちょっとした小旅行ができる。

最近、ハワイのレストランの入り口には、フリー・メニューが置かれている所が多く、いつからか僕はそれらをもらって帰るのが習慣になっていた。 今では僕のファイルには、かなりの種類のヴィンテージ・メニューから最近のフリー・メニューまでもがストックされている。古いレストランはすでに存在しないものがほとんどだが、ここ何年かの間にもらってきたものには、すでに閉店してしまったところがたくさんあって、寂しい限りだ。お気に入りの料理がある店がいくつもあったのだが……

僕にとってレストランのメニュー・カバーはハワイのイメージが凝縮されたアートでもあり、メニューは‘観光の島ハワイ’の移り変わりの歴史の資料でもある。 これからも僕のメニューファイルはまだまだ増え続けるだろう。