ギャビー・パヒヌイを筆頭にピーター・ムーン、ケオラ・ビーマーなど優れたスラック・キー・ギタリストは数多くいて、それぞれが独自のスタイルを持っている。
ミュージシャンでない人達も、代々家に伝わるスラック・キーのチューニングを持っていて、自分のスタイルで弾いている人も多く、門外不出と言われてきた各家独自のチューニングや奏法は決して他人には伝授しなかったと聞く。
僕はこのスラック・キー・ギターの響きの美しさの虜になり、レコードやCDを数多く購入して聴き入っていたが、やがて自分でもスラック・キー・ギターを弾いてみたくなった。アコースティック・ギターは以前から弾いていたので、チューニングなど弾き方さえわかればスラック・キー・ギターの真似事はできるかなと思った。
最初に出会ったチューニングのヒントは‘Pure Gabby’というギャビー・パヒヌイのスラック・キーの弾き語りアルバムのLP盤だった。このアルバムは曲の前にギャビー自身がキーを告げ、ギターを6弦から1弦まで鳴らしてチューニングを教えてくれているのだ。
ジャケットにある曲の説明に‘Hi’ilawe’― C G E G B Eなどのようにチューニングも記載されている。これをヒントに僕は‘Hi’ilawe’などをコピーしてみた。自分でも雰囲気だけは出ていると思っている。しかし、きちんとスラック・キー・ギターの基礎を学びたいと思い、ハワイで‘KI HO ALU’というRonald J.K.Loo著の本を購入した。タブ符と6本の教則カセット・テープで基礎を学べ、チューニングも基本的なタロ・パッチ(「Open G/オープン ゲー」…構成音が全てソ、シ、レで作られるチューニング法)からはじめるのでとてもわかりやすかった。
以前、チャイナタウンのアンティーク・ショップで古いスラック・キー・ギターの教則本を見つけた。確か$10くらいだったと思う。1977年に出版されたケオラ・ビーマー著の‘Hawaiian Slack Key Guitar’$4.95(当時の価格)だ。ソノシートがついているのが年代を感じさせた。
実はこの本の再発行本‘Keola Beamer’s First Method for Hawaiian Slack Key Guitar’$7.95にはソノシートではなくカセットテープが付いていて、曲も初版の教則本の中の‘Kamakani ‘Olu’olu’という曲が削除されていたのが残念だった。軽快なリズムの曲で1弦から D B F# D G D のチューニングで僕が弾いてもスラック・キーの雰囲気はかなりでていたと思う。
他にケオラ・ビーマー著の教則本はCD付の‘Keola Beamer Teaches Hawaiian Slack Key Guitar’とビデオ教則の‘The Art of Hawaiian Slack Key Guitar’がある。ビデオはタブ符も付いていてわかりやすく、曲もケオラらしいしっとりとしたバラードが収められている。難易度は高いが弾けるようになったときの喜びは大きい。
カントリー・コンフォートの楽譜集‘Country Comfort Classics Collection Vol.1’には、‘Waimanalo Blues’のかっこいいスラック・キーのイントロのコピー譜が載っている。7カポでひくイントロは実に70年代の雰囲気がでている。日本でも1978年に日本を代表するスラック・キー・ギタリストの山内雄喜著の‘スラック・キー・ギター入門<ギター変則チューニング奏法>’が出版されていたことをかなり後になって知って驚いた。最近はウクレレ教室のようにスラック・キー・ギター教室も行われていて、もし80年代にあったら僕も習いに行っていただろう。
アタ・アイザックスのスラック・キー・アルバム‘ATTA’を聴いていると、ビッグアイランドの広々とした風景が浮かんでくる。ハワイで生まれたスラック・キー・ギターの音色は、やはりハワイの風景がいちばん似合うのだと思う。