コラムコラム

第18回 Heiau – ヘイアウ

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「ノースショア」というハリウッド制作のサーフィン映画が80年代に公開された。海の無いアリゾナからサーフィンをするためにノースショアにやってきた青年のサクセス・ストーリーだ。多くのトップ・プロサーファーが俳優として出演したことで日本でも波乗り仲間の間ではちょっとしたブームになった。

この映画の中で美しいヒロインがティー・リーフで包んだ溶岩を石垣の上に置き、大波に挑戦するサーファーの無事を祈るシーンがあった。これを見て僕はヘイアウというものを初めて知ったのだ。

ヘイアウとはハワイ諸島にキリスト教が入ってくる以前、古代ハワイアンがカフナ(祈とう師)を呼んでさまざまな儀式を行っていた場所である。今もハワイ諸島に数多く残るヘイアウはそれぞれ違った用途を持っており、特に、人身供養の儀式が行われていたビッグアイランドのノース・コハラにある、カメハメハ創建のプウコホラ(Puukohola)、駆け込み寺的な場所となっていたサウス・コナのプウホヌア(Puuhonua)、フラの守護神ラカを祭り、フラダンサーの聖地として今も訪れる人の絶えない、カウアイ島ノースショアのケ・アフ・オ・ラカ(Ke Ahu O Laka)は有名で、近年日本でも紹介されるようになってきた。

90年代にロコに絶大な人気を誇った、ハワイアンスタイルバンドのセカンドアルバムに収められている、ラスト・ナンバー「Heiau」という大作は、当時オアフ島のハワイアン・ミュージック専門局のKCCNやKINEで常にオンエアーされていたのを覚えている。

このように、一般的に知られるようになると同時に遺跡としても注目を集めはじめたヘイアウだが、僕がハワイに来るといつも立ち寄るのが、冒頭で述べた、オアフ島のノースショアにある、プウ・オ・マフカ・ヘイアウ(Pu’u O Mahuka Heiau)だ。ここは、この映画の中に出てくるヘイアウはどこなのだろう、といつも気にかけていた場所で、偶然アメリカ人観光客向けガイドブックで見つけた。

プウ・オ・マフカ・ヘイアウは、古代ハワイアンが戦勝を祈って生贄などをささげた場所と聞いている。大波で有名なワイメア・ベイを見下ろす丘の上にあり、湾の奥は緑深いワイメア渓谷になっている。晴天の日にはカエナポイントまでノースショアのコーストラインが見渡せ、冬は湾内に押し寄せる大波の絶好のビューポイントとなる。雨の日は霧にかすみ、神秘的な雰囲気をかもし出す。

オアフ島だけでもまだまだ数多くのヘイアウがあり、保存されているものもあれば放置され荒れたままになっているヘイアウも少なくない。 オアフ島最古のヘイアウとされている、東海岸カイルアにあるウルポ・ヘイアウ(Ulupo Heiau)は、伝説の小人‘メネフネ’が一晩で築き上げたと言い伝えられている。以前はヘイアウを積み上げた石が持ち出され、荒れ果てた状態だったと聞くが、今では復元され、澄んだ湧き水が流れ出し、へイアウの周りではタロイモも栽培されている。この風景は、古代ハワイアンのライフスタイルが時を越えてよみがえったかのように僕の目には映った。

だが、忘れてはいけないのは、ここはハワイアンにとっての聖地であり、われわれ部外者は決して土足で足を踏み入れてはいけないということだ。僕自身、そんな空気をヘイアウを訪れるたび、ひしひしと感じるのである。ハワイの神話や伝説を読んでもっと勉強し、ヘイアウを訪れてみると、見方や解釈も変わって来るのではないだろうか。