マウイ島は地図で見ると、島の周囲を一周する道が続いているが、西と東の一部分にレンタカーが走行禁止の場所がある。道路状態の不備から保険適用外の地域だからだ。知られている走行禁止区域は東海岸の鼻の先、キパフルからヌウまでの区間で、道幅は狭く、舗装状態も悪い上に小石などが転がっていて危険だ。
しかし、さらに危険な道は、北海岸周りで西マウイからカフルイまで抜ける途中にある、カハクロアという小さな町に入る道だ。この道に出くわしたのは、以前ハワイのブックストアーで入手した『ALOHA』(「第7回僕の好きだった雑誌“ALOHA”」で紹介)という雑誌に載っていたのを見てから気になっていたカハクロアという町に行きたくて、ラハイナから北回りで車を走らせた時のことだ。
カパルアでリゾート地帯が終わり、そこからさらに10分ほど行くとホノルア・ベイに到着する。ここは夏は絶好のシュノーケリング・ポイントで、さらに冬は大波が押し寄せるので、サーフィン上級者に人気のポイントだ。波の良い日は平日でもサーフボードを積んだ車が多く、ホノルア・ベイを見渡せるビュー・ポイントから湾を見渡すと、大きな美しい波が沖から湾に向かって押し寄せているのが見える。カメラのファインダー越しに、モロカイ島をバックに大きな波に乗るサーファーを覗いてみると絵になっていた。
ホノルア・ベイを後にし、左手にパイナップル畑を見ながら15分ほど進むと、眼下に小さな三日月型の湾が現れ、ぽつぽつと民家が見えてくる。ホノコハウ(Honokohau)という集落だ。人のいないビーチ・パークには、レンタカーの観光客が時折立ち寄る、屋台のスナック・ショップが1件だけある。この湾の外側では美しいチューブを巻いた波が見られ、さらにワインディング・ロードを北に向かって進んでいくと、雲がほとんど消えて乾燥した赤土の大地のある風景が広がる。
海の色は青さを増し、左手に見えるモロカイ島の山肌がはっきりと確認できる。この辺りまで来ると、奇妙な形をした岩が沢山見られ、道路を馬が歩いていたりする。やがて前方に山のような大きな岩が見え、その下に、目的地のカハクロア(Kahakuloa)がある。ここからは道が細くなっていて、先に行くには車が1台通れるほどの狭いがけっぷちの道を通らなければならない。前から車がこないのを確認して、クラクションを鳴らしながら慎重に通過すると、ようやくカハクロアの町を見下ろす高台に辿り着く。
この高台からは数件の民家と小さな教会が臨める。目の前のカハクロアのシンボル的な大きな岩(カハクロア・ヘッド)は北海岸のパイアから見えていた岩だった。このカハクロアの奥の谷間は古くからネイティブのハワイアン達が、タロイモを育て暮らしていた場所だ。現在は保護地区になっていて、ビジターは許可無く入る事ができない。
しかし、最近この場所を訪れるツアーができて、参加すれば、昔からのタロイモ畑が広がる風景とハワイアンの暮らしを垣間見て、体験することができる。僕もこのツアーで古代ハワイアンの世界へタイム・スリップし、不思議な時間を過ごした。
旅行者にとってはツアーでしか入ることのできない場所だが、崖っぷちの細い道を黄色いスクール・バスが走っているのを見た時は、やはりここもアメリカ合衆国ハワイ州の中のひとつの町であり、日常生活を送る人々がいるのだ、と思った。
昔から気になっていた場所、カハクロアに始めて辿り着いた時、ワイキキとはまったく違う異次元のような世界に驚いた。やはりハワイはまだまだ奥が深いと、改めて思った。